何故、生産性が上がらないのか?【1】

日本は、世界の中で生産性が低いと言われて久しい。経済大国として、世界3位のGDPを誇っているにも関わらず、主要7か国(G7)の中で労働生産性は最下位である。
安倍政権が、アベノミクスの一環で生産性改革を掲げたのは2017年、その後働き方改革関連法案といわれる労働関連法の整備を経て、5年が経過した。しかし、現在においても日本の労働生産性は低迷したままだ。
「働き方改革」「ワークライフバランス」といったキーワードばかりが先行し、実が伴っていないのだ。

労働生産性の国際比較については、公益法人日本生産性本部が毎年統計データを発表しているので参考いただきたい。
日本生産性本部 2021年度版 労働生産性の国際比較
国際比較における労働生産性の計算は、各国の物価や為替レートの影響による補正をかけているものの、概念としては単純な式である。

各国の労働生産性 (1時間当たり) = GDP / 総労働者数×総労働時間

経済指標であるGDPを、日本全体の総労働者数と総労働時間で割れば算出できる。意味合いとしては、国民1人が1時間の労働によってどれだけの付加価値額を生み出しているか、ということになる。2020年のデータでは、日本の1時間当たりの労働生産性は5,086円、米国は8,282円である。米国は日本に比べて1.6倍もの生産性だ。陽気で時間に寛容といわれるラテン系のイタリアやスペインにおいても、労働生産性は日本の上をいく。

数多くのメディアや論文で、我々日本人の生産性の低さは指摘され続けているから、どの経営者にも少なからずその認識があるはずだ。にもかかわらず、何故、掛け声だけの働き方改革で終わってしまうのだろうか。

残念ながら、残業しないよう早く退社を促す程度しかやれていない企業が数多くあるのが実態だ。経営者が頻繁にメッセージを出しても、経営企画部門や人事部門が懸命に旗を振ったとしても、実効性のある施策が伴っていないので結果が出るはずがない。上記の計算式に当てはめると、ただ残業を減らすだけでは労働生産性の分母は減るかもしれないが、同時に分子である付加価値も減る。従って生産性は増えも減りもしない。もっと低いレベルの話になると、生産性を上げるという目的などさらさらなく、当局(この場合の当局は労基署)に目をつけられないようにするためだけに、働き方改革などと公言している経営者もいたりする。

一部の学者や政治家は、日本の生産性の低さの原因として、他国に比べIT投資が過小であることを指摘している。が、それは分析が甘い。
どの企業も、毎年そこそこの金額のIT投資を行っている。問題は、そのIT投資が本当に実効性のある内容を伴ってきたかどうかだ。
今までのやり方を変えず業務も変えないまま導入し効果が出ないケース、
現場軽視のトップダウンで導入し結局使われないまま現在に至るケース、
個々人の得意不得意や好き嫌いに任せ活用が徹底できていないケース、
ITオタク担当者が自分の好みで導入し高いおもちゃに成り下がるケース、
そのような光景が企業各所にみられる。
以前の投稿記事「目的と手段」で指摘したように、ITはあくまで手段だ。
IT導入そのものを目的化してしまうと、往々にして上記ケースのいずれかに陥ってしまう。

掛け声だけの働き方改革に陥らないためにはどうしたらいいのだろうか。
それには、生産性が上がらない理由、その根本原因を突き詰める必要がある。筆者がコンサルティングを通じて見てきたビジネス現場の実態を踏まえ、以下の4点を切り口として解き明かしていく。

1. 評価指標
2. 組織設計
3. 組織文化
4. 人間心理

次稿【2】に続く。

FIN.    April 1st, 2022