何故、生産性が上がらないのか?【2】
前稿【1】では、掛け声だけの働き方改革/生産性向上になってしまい、実行が伴っていない現状について言及した。ここからは何故そうなってしまうのか、掘り下げていくことにしよう。
間違った評価指標の設定
組織を運営する経営者にとって、構成する社員たちは同じ価値観と同じ行動様式を持っていることが望ましい姿だ。そのために、どの会社も企業理念(ミッション、ビジョン、バリュー)を定め、内外に向けて広くアピールする。しかし企業理念は、あくまで考え方に過ぎない。日々の社員たちの価値観と行動様式を決定づける最も大きなファクターは、評価指標だ。
何をしたら会社から褒められるのか、何をもって評価されるのか、給与はどうやったら上がるのか、といった誰もが持つ疑問に対する解は、個々の社員の評価指標にある。
評価指標を設定する際には、組織が目指す目標と論理的に繋がっていることが大原則だ。組織目標を掲げ、その目標に基づく組織戦略と施策があり、それらの施策を実行する社員たちの評価指標と繋っていることが必須要件だ。(Figure1)
Figure1のように図で示すと簡単だが、実際に中身を言語化して埋めていくと、論理的整合性がとれないケースがよくある。出来上がった段階で、最上位レイヤーである組織目標と、最下位レイヤーである社員の評価指標との間で論理矛盾が起きてしまうのだ。
よくある例を挙げてみよう。
企業は存続するために利潤を追求することが必須要件であるが、具体的な指標としては、売上総利益(粗利)と営業利益がある。売上総利益は売上高から仕入原価・外注費などの直接原価を差し引いた金額、営業利益はその売上総利益から従業員給与・家賃・旅費交通費・接待費などの経費を差し引いた金額である。
多くの企業は、指標として売上総利益を重要視しているが、ここに落とし穴がある。売上総利益には社員の人件費が入っていない。売上総利益を唯一無二の組織目標として設定してしまうと、生産性という概念がなくなってしまうのだ。
すると数字を上げるためには、労働時間は二の次となり、とにかく頑張って働けということになる。仕事のやり方を工夫して効率を上げたとしても褒められるわけではない。長時間労働が当たり前になってしまう所以だ。
こういった企業の社員は、往々にして、利益の認識に欠ける。自分の労働時間がコストであるという認識も、効率や生産性といった考え方も持たなくなる。だから無駄な動きが多くなる。
意味もなく大人数が参加する会議はその典型だ。会議に出席したという事実だけで仕事をした気になってしまう。生産性という概念には、前稿【1】の計算式で示したように常に分子となるアウトプットが求められる。ただ会議に出席するだけでは、アウトプットがゼロなので、生産性を大きく下げる元凶になってしまう。
組織目標となる「売上」「売上総利益」「営業利益」のうち、生産性の概念を持つのは営業利益だけだ。(Figure2)
従って、生産性を組織目標に掲げるのであれば、営業利益を分解して、個々の社員の評価指標に落とし込まなければならない。そのためには、それなりのルールと仕組みの構築が必要だ。労働時間に基づく人件費の配賦ルールと各経費項目の按分ルールの定義、そして日々の労働時間のカウントと自動配賦するための管理会計システムが求められる。
これまでのような社員の頑張りに依存するだけの評価指標では、いつまで経っても働き方は変わらないし、生産性は向上しない。
社員の意識を変え、そして行動を変えるためには、評価指標の見直しは必須である。
次回は、生産性が上がらない二つ目の要因「組織設計」について、執筆します。
FIN. April 8th, 2022