何故、生産性が上がらないのか?【3】
初回【1】では、掛け声だけの働き方改革/生産性向上になってしまい、実行が伴っていない現状について言及した。
前回【2】では、生産性が上がらない一つ目の理由として「評価指標」について解説した。
今回は、生産性を阻む要因「組織設計」について語っていくことにしよう。
仕事に人をつける vs. 人に仕事をつける
企業の組織には、それぞれ役割と機能が定められている。その組織に定められた機能を分解し、社員一人が遂行可能な業務に細分化したものが職務となる。従って組織には、それぞれの職務毎に、それを遂行できるだけのスキルを持った社員が何人必要か、というデザインをしていくことになる。これが組織設計の概念である。
“仕事に人をつける”とは、この組織設計をきちんとやって配属した社員に業務を割り振ることをいう。理想の形は、求めるスキルを持った社員たちが内外から満遍なく集まり、それぞれの社員たちが機能連携して組織力を大いに発揮することだ。しかし、そう上手くいかないから、未経験の若手を育てたり、欠員の穴を上司が埋めたりしながら、常に理想の形の組織を目指そうとするのがよくある光景だ。
一方、”人に仕事をつける”とはどういうことか説明しよう。これは、まず人が最初に組織に配属され、次に、その人にやってもらう業務を決める人事慣習のことを言う。仕事ありきではなく、人ありきの考え方である。ここには組織設計という概念は存在しない。(Figure3参照)
中間管理職が「悪いがこいつを預かってくれ」とか「ちょっと使ってみてくれ」などと社長や役員から頼まれるのが分かりやすい例だ。
人に仕事をつけている例は、問題児のような少数社員でなくても、社内各所に見出すことができる。毎年毎年、同じ業務をやり続けている社員、これも”人に仕事をつける”の典型だ。長年やっているから安心感がある反面、この人しか分からない業務でもある。ブラックボックス化してしまうのだ。
結果、誰も口を出せなくなり、大した仕事でなくても聖域化されてしまう。
残念ながら、日本企業の多くの組織には、こうした”人に仕事をつける”慣習が染みついてしまっている。明らかに”仕事に人をつける”という考え方のほうが合理的であるにも関わらず・・・。当然ながら、生産性向上というテーマでは、この人事慣習が大きな足枷になってしまう。
さて、それでは何故、”人に仕事をつける”という思考に陥ってしまうのか、理由を展開していくことにしよう。
原因は日本特有の雇用慣習にある
世界でもユニークな雇用慣習、それが日本の新卒一括採用と終身雇用だ。
何十人、何百人もの新卒社員が一斉に入社し、皆が同じように教育を受け、ジョブローテーションを経ながらお互い顔の知った人たちと常に仕事をし、定年まで同じ企業で働き続ける。これが、戦後から日本に定着している雇用慣習である。
昨今は多様化が進み、独立独歩のキャリアパスを踏む若者が増えてきたが、まだまだマジョリティはこの雇用慣習を継承している大企業志向・安定企業志向を持つ同質化した集団群だ。
同質化した集団の中にいると、異質と見なされる発言や行動は浮いてしまうからどうしても避けがちになる。だから、言わなくても分かるだろうとか、暗黙の了解とか、そのうち分かる、といった論理が通用する。真面目に組織設計を行い必要な社員の引き抜くために社内バトルを繰り返すよりも、与えられた人員の中で穏便に何とかやっていく方が上手な生き方になってしまうのだ。これが”人に仕事をつける”考え方の根っこにある真意だ。
生産性を向上する取り組みは、何かを変えるわけだから、必ず何かが犠牲になる。犠牲を伴うことは、同質化を壊すことにつながる。従って、同質化が強い企業であればあるほど、何かを犠牲にして生産性を向上しようという発想には転換しづらい。
ジョブ型雇用への流れ
最近、日立やKDDI、富士通といった大企業が、ジョブ型雇用へ移行するというニュースが流れている。筆者が本稿でお伝えした、“仕事に人をつける”という概念を体現化したものがジョブ型雇用である。筆者が以前に寄稿した年功序列問題を踏まえても、こうした企業の動きは必然の流れであろう。誰もが何となくおかしいと感じていた日本の雇用慣習に対し、変革を試みようとする勇気ある経営者に敬意を表したい。
だが事はそんなに簡単なことではない。長年染みついた慣習を変えるのは、時間も労力もかかる。落とし穴も各所に潜んでいることは容易に想像できる。
今回は、生産性向上を妨げる要因として組織設計という表題を掲げた。組織設計というと堅苦しいが、要は、“仕事を人につける”か、”人に仕事をつける”か、どちらの思想で組織を運営するかということだ。例外対応や温情措置などの要素はもちろん必要であるが、原理原則として持つべきスタンスはどちらなのか、今、経営者たちは問われている。
次回は、生産性向上を阻む要因「組織文化」と「人間心理」について執筆します。
FIN. April 15th, 2022