元請ビジネスと下請ビジネスとの違いはどこにあるか?【1】

“元請”は大企業が担い、”下請”は中小企業や零細企業が請け負う、という固定観念を持っている人は多くいるだろう。しかしながら昨今では、小さな企業でも要諦さえ理解していれば、元請として直接顧客から仕事を請け負うことが可能だ。本稿では、元請ビジネスと下請ビジネスとの本質的な違いを解説していきます。

元請・下請のビジネス構造の変化

建設業界・広告業界・IT業界、これらは元請・下請ビジネスの典型的な構造で成り立っている業界だ。それぞれの業界では多くの就業者が従事し、大企業から中小・零細企業・個人事業主に至るまで、その裾野は非常に広い。
それぞれの業界の頂点にある企業は名の知れた元請企業ばかりだ。建設では鹿島・大林を筆頭にしたゼネコン、広告では電通・博報堂、ITでは富士通・NEC・NTTデータなど。
これらの元請企業は、顧客から数千万~数十億単位の受注をし、その仕事の一端を下請企業へ、そして下請企業から孫請企業へ発注が流れている。基本的なビジネス構造は、戦後からずっと変わっていない。
しかしながら昨今では、下請・孫請だった企業が、直接顧客から数百万円から数千万円の発注を受けるケースが増えてきている。
その背景には、四つの環境変化がある。

一つ目の変化:敷居が低くなった資金調達環境

戦後から高度成長期にかけての取引は、手形決済が通常だった。発注元の顧客企業も、受注者である元請企業も、手元資金が十分ではなかったからだ。当然、下請企業はさらに資金繰りに苦しく、信用力がない。下請が元請になれる余裕などあるはずがなかった。
現代は現金決済が標準である。日銀の金融緩和が長く続いているお陰で、市場を流れる資金は潤沢だ。資金調達の手段は、銀行以外の選択肢が複数ある。小さな会社でもリスクを負って投資をしてチャレンジできる環境に大きく変貌したのだ。

二つ目の変化:賢くなった顧客企業

戦後からバブル期に至るまで、顧客企業からの発注は、元請企業に“まとめてお任せ”といった、ある意味、粗雑な取引形態で事が済まされていた。
ところがバブル崩壊を経て、コスト削減の波が襲ってきた。当然、コストの精査が厳しくなる。元請が右から左へ伝票を回して、下請に任せるだけの発注は許されなくなった。
顧客の発注担当は、今まで必要の無かった発注コストの精査をしていくことに追われた。加えて、雇用自体が流動化したことで、コスト構造の事情を知る元請企業から、顧客企業に転職する人が増えた。
こうして発注側の顧客企業は、徐々に賢くなっていった。 発注ノウハウや、費用の内訳に関する知識が蓄積されていった。“元請お任せ”の発注形態から、“分割&直発注”の形態に移行できるようになったのだ。

三つ目の変化:知識のオープン化

インターネットが台頭するまで、法人ビジネスのノウハウは一切公開されていなかった。むしろ一子相伝のような限られた経験者たちだけの聖域のような存在だった。
現在、インターネット環境はナレッジの宝庫だ。業界事情・競合情報・市場価格・発注ノウハウ・提案書や見積のフォーマット・受発注ビジネスツール等々、下請が元請に変貌するために必要となる情報が容易に取得できるようになった。

四つ目の変化:法整備とコンプライアンス強化

冒頭で話したように、元請ビジネスは巨額の金が動くので、様々な利権が付きまとう。接待・贈答・キックバック・リベート・水増し請求・買い叩き等々、法に触れないギリギリのところで、受注競争が繰り広げられていた。今でもそれらは無くなっていないが、随分と減ってきたのも事実だ。
独占禁止法や下請法の適用をはじめとした法の適用、そして法に触れなくても社会規範や倫理観に基づくコンプライアンスが徹底されるようになってきたからだ。
公正な判断に基づき業務を行うことを求められるわけだから、必要以上の経費を伴う上記の活動は自重されるようになってきたわけである。

以上、元請・下請のビジネスを取り巻く環境が、以前とは大きく変わってきたことを、四つの変化として解説した。
ただし環境が変化したからと言って、下請ビジネスから元請ビジネスに簡単に転換できる訳ではない。次回は、下請から元請に変貌するための視点と勘所について解説していきます。

FIN. June 17th, 2022