元請ビジネスと下請ビジネスとの違いはどこにあるか?【2】

元請と下請、同じ業種でありながらビジネスに対する考え方・取り組み方は大きく違う。
前回【1】は元請と下請を取り巻く環境変化について解説したが、今回、本質的なところで何が違うのか、三つの視点で解説していく。

[視点1] 元請は顧客を見る、下請は元請を見る

当然の事だが、元請にとって最も大事な相手は顧客だ。顧客の要望を最大限にくみ取り、顧客が満足するだけの成果を上げることが使命である。一方、下請にとっても同様に、顧客が最重要かというと、必ずしもそうではない。下請の契約先は元請である。元請から委託された業務を遂行することが責任だ。従って、元請の意向や契約条件が最重要となる。
元請は顧客を見て、下請は元請を見る。この視点の違いにより、意識・考え方・仕事への取り組み方に大きな差が出る。

顧客と元請・元請と下請

また、顧客から元請に開示された情報は、下請に対し一部の情報しか開示されないのが普通だ。だから、下請に対し、顧客第一に考えろというのは無理がある。むしろ、下請が顧客に良かれと思ってやったことを、元請から余計なことをするなと諌止されるのが落ちだ。
下請は残念ながら全体像をつかむことが難しい。自身の責任範囲を全うすることが使命であると割り切ることが大切になってくる。

[視点2] 元請は市場価格から利益を捻出する、下請はコストに利益を載せて価格とする

元請は常に市場競争の渦中にある。大きなビジネスになればなるほど、コンペ形式の受注合戦だ。提示する価格は、常に市場価格を前提に算定する。市場価格を前提に、いかにコストを抑え最大限の利益を捻出するか、常にその算段に向き合っている。
一方、下請は、元請の長くからの付き合いによる信用取引であり、指名だ。値ごろ感もお互い分かっている。長く付き合えば付き合うほど、下請が儲けすぎることは嫌われる。ほどほどに利益を出すのが円滑な取引につながる。従って下請は、赤字にならない価格設定(コスト+利益)が通常となる。

元請と下請の価格構造の違い

下請が、元請ビジネスに参入しようとするときに、一番間違いやすいのは価格提示だ。下請の時と同じ考え方で価格設定すると、痛い目に合う可能性があるから気を付けなければならない。

[視点3] 元請は販管費が高くなる、下請の販管費は限りなく低い

ビジネスリスクは、取引金額が大きくなればなるほど、従事する人員が増えれば増えるほど、そして仕入先・外注先などの取引先の数が増えれば増えるほど、高まってくる。従って元請には、それらのリスクを軽減したり回避したりするための機能を装備する必要が出てくる。具体的には、法務・知財・財務・経理・人事・労務の機能の充実だ。競争が激しくなればなるほど、それぞれの専門性が高まり、エキスパートの調達が必要になる。
営業機能においても、顧客への受注行為に加え、納期の調整・外注先とのやり取り・支払・請求管理等々、各段に業務量が増える。必然的に販管費が上がってしまうのだ。
一方、下請企業のビジネスリスクは、元請企業に比べ格段に小さい。視点2で述べたように利益率を低く抑えざるを得ないため、余分な人員を雇う余裕もない。だから社長が、営業や間接部門の機能を担う。中小企業の社長が、雑務に追われているように見えるのはこのせいだ。

元請と下請の機能の違い

以上、元請と下請の本質的な違いについて言及した。
経営者にとって下請企業を脱皮して元請企業になることは、悲願でもある。これらの違いを常に念頭に置くことで成功が近づくと考えている。

FIN.   June 24th, 2022