私たちが成長を目指す三つの理由

成長は活力の源泉であり、明るい未来への展望をもたらす。これは国家でも企業でも個人にも言えることだ。国家の成長は、社会基盤の充実と安定をもたらし、国民生活レベルの向上につながる。企業の成長は、事業の拡大に伴う従業員の雇用と所得向上の機会につながる。個々人の成長においては、新たな能力の取得による自身の活躍機会の場をもたらしてくれる。
私たちが成長という言葉を使う際には、単に物理的に大きくなることや拡大すること ( Growth )だけではなく、能力が向上すること(Progress)や、上達すること・向上すること(Improvement)などの意味合いがある。つまり、子供が大人になることは、当然成長なのだが、それだけではなく大人になってからも、学ぶことや新しい経験を積み重ねることで成長が可能だ。人類の営みの歴史は、成長のための活動そのものとも言えるが、それはこれからの将来においても同様であろう。

では何故、国家も企業も個人も成長を目指そうとするのか。
その理由について、筆者は三点あると考えている。

第一の理由:好循環を構成

成長を目指そうとする第一の理由は、好循環を構成するからである。国家の成長過程においては、物量・情報量・資金量が格段に増えていき、大きな流れと循環を構成していく。滞っていた地域や共同体が減り、社会全体の循環が良くなっていく。また、企業の成長過程では、サプライチェーンの根幹となる生産量が増え、資金の循環が良くなり、設備投資や人員増につながっていく。人間の成長でいえば、骨格と筋肉のバランスが整い、循環器系の機能が向上し、脳が活性化されていくことで、心身の健康につながっていく。
大きな循環を構成していく成長過程では、より大きなエネルギーを消費する。そのため、過去に必要であった量以上のインプットが継続的に必要となる。そして、インプットが多くなるにつれ、そのインプットの消化の方法や、インプットをもとにした生産過程が多岐に渡っていく。つまり多様性が増し、柔軟性も増してくる。従って、仮にインプット自体やその消化の方法に多少不具合があったとしても、その循環を構成する道筋が複数あることにより、全体としては整合性が確保され、大きな問題にはなることは少なくなる。つまり、大きな成長の流れの中においては、枝葉の不具合は少しずつ改善されていくことにより、循環は好転し続けるのである。

第二の理由:抗体の生成

第二の理由は、成長することによって、不確実性に対処しうる抗体ができることにある。成長しようとする意志は、未知へのチャレンジだ。昨日までやっていなかったこと、出来なかったことを、今日から着手しようと決意する。それによって、初めて成長の一歩を踏み出せる。その第一歩は、必ずしも成長に100%つながるとは保証されていないが、まずは踏み出さないことには始まらない。むろん、闇雲に着手するわけではなく、他国や他企業の事例を調べたり、専門家の意見を聞いたり、ネットから情報を検索した上で、判断するはずだ。先人がチャレンジに成功して成長を遂げたからといって、成功するとは限らない。理論上は上手くいくと確信していたことが、いざ実行してみると思い通りに進まないことは沢山ある。三つのチャレンジをしたら、一つは成功するかもしれないが、二つは失敗するかもしれない。成長していく過程は、不確実な将来の結果に対して、成功も失敗も含めて経験を積み重ねていくことと同義と言える。その過程を経ることにより、不確実性に対する抗体ができていく。この抗体の有無、そして抗体自体の強さこそが、将来に向けての成長の源泉となるのだ。そして、さらなる成長を遂げようする強い意志につながり、その結果、成功する確率を高めていく。また、国家や企業を揺るがす想定外の事態が起きた際には、この抗体が有効に機能することになる。不確実性に対応できるだけの、変化対応力を持った抗体を所有しているからだ。

第三の理由:負を相殺

第三は、成長はプラスの数値で表現されるという特性を持つことにある。プラスの数値はマイナスの数値と相殺し合い、負の要素を打ち消す。企業で言えば、一つの事業部門が今期赤字に落ち込んだとしても、他の事業部門がそれを打ち消すだけの黒字を出していれば、大きな問題ではなくなる。国家においても、円高で輸出が落ち込んで貿易収支が赤字になっても、海外投資から得る配当や利子の収支が上回れば、全体として国際収支はプラスになる。アスリート個人で言うと、加齢とともに身体能力が低下したとしても、経験に基づく判断能力や制御能力の向上分が、身体能力の低下分を補うことができれば、活躍を続けることができる。
国家でも企業でも個人でも、成長の対象となる全体構成物を要素分解していくと、それぞれの要素は時間の経過とともに違ってくる。大きく分けて、プラスになるもの、変化のないもの、マイナスになるものの三つに分かれるのだが、それらの要素全てを差し引きして、全体としてプラスであれば、その対象物は成長していると見なすことができるわけだ。

循環が良くなり、強い抗体が生成され、全体としてマイナスを打ち消しプラスとなる、この三つの要因があるからこそ、国家も企業も個人も、本能的に成長しようという意思を持つと、筆者は考えている。

FIN.             May 27th ,2022