企業が成長期にある時の落とし穴

以前の記事では「企業が成長を目指す理由」について言及した。
企業は自らが成長を目指すことで、新陳代謝を図り、市場と技術の進化に合わせた新たなチャレンジを重ねていく。幾多の失敗を糧に、新しい事業を成功に導くことで、既存事業の衰退を補い、長期の企業存続が可能となる。事業運営では停滞期・低迷期に直面することもあるが、時代と市場に適合した新事業が軌道に乗れば、新たな成長局面に転じることができる。
企業が成長期にある時には、あらゆることがポジティブな状況になる。多くの部門が目標を達成するので、社員の人事評価が良くなり、報酬はそれに応じて上がっていく。社員のモチベーションも必然的に高くなる。資金繰りの心配もなくなり、社外からの評価も得られるので、経営的には安泰だ。
だが上手くいっている時だからこそ、気を付けるべきことがある。

驕らず昂らず

よく言われる言葉だ。業績好調時は、誰もが天狗になりがちだ。時運に恵まれ、かつ多くの人たちの協力があってこそ成功しているはずなのだが、全て自分の力だけで成功を収めているかのごとく勘違いしてしまう。さらに、多数の人が商売や金銭目的で近づき、美辞麗句を重ねてくる。有頂天になってしまう環境に満ち溢れているのだ。
人は、我を忘れて過信してしまうと、必然的に威圧的で高慢な態度になってしまう。そうなると、相手に応じて接し方を使い分けるようになってくる。権力者や重要顧客に対しては腰を低くして遜るが、立場の弱い人たち、部下の社員や仕入先の社員に対しては偉そうな態度に豹変する。さらに、たちが悪くなると、扶養している家族、配偶者や子供たちに対しても、上から目線になってしまう。
自戒を込めて、本当に気を付けなければならない。次に控えているのは上手くいかなくなる苦しい局面だ。その様相に展開すると、たちまち人心が離れてしまうのだから。上手くいっている時だからこそ、謙虚な姿勢と冷静な思考判断が試されていると思ってよいだろう。

次への布石

事業が成長して一定の利益を安定的にあげていくまでには、相応の時間を要する。従って既存事業が順調な時こそ、次の新事業の立ち上げに向けた投資のタイミングである。
事業好調時は、当然ながら内部留保は増え、キャッシュに余裕が出てくる。手っ取り早いのは企業買収であるが、それだけでは企業の地力が強まることはできない。時間をかけて、人材投資を行うべきだ。新事業に適した外部人材を雇い入れ、かつ既存社員に対して技術取得やスキル向上のための教育投資をしていく絶好の機会なのだ。

将来リスクへの備え

上手くいっている時には、プラス要因の比重がマイナス要因の比重を上回るため、個々で起こる小さな事件や問題などは打ち消されてしまうという特性がある。
企業の業績が好調な時、組織が拡大しポストも増え続けるので、人員が溢れることはない。人事評価では、敢えてマイナス評点をつける必要がなく、全員に昇給につながる評価をあげることも可能だ。社員は、給与や賞与が上がり続けていけば、社内に対する問題意識や不満があったとしても波風を立てないようになる。つまり好調時においては、人事的な問題が顕在化しにくくなるのだ。
永遠に成長し続ける企業は存在しない。成長が止まったとき、成長がマイナスに転じたときに、経営者はみな人事の重要性を認識する。全員の給与を上げるわけにはいかなくなる。社員にマイナス評価をつけなければならなくなる。曖昧だった評価を厳密にやらなくてはいけなくなる。そういう時になって、慌てて人事評価制度を見直すケースが散見される。
好調な時こそ将来に備えるべきだ。経営的に苦しい局面になっても、働く社員がモチベーションを保ちながらパフォーマンスを発揮できるだけの公正な人事評価制度を確立しておくことが必要であると考えている。

“驕る平家は久しからず”
目前の快楽に興じることなく、常に将来のことを考え、謙虚であり続ける。それが企業の成長期にある経営者に求められる姿勢であると考えている。

FIN.    September 17th, 2022