マーケティングの醍醐味

マーケティングに関わる仕事は多岐に渡る。ブランドマネージャ、宣伝担当、PR担当、クリエイター、デザイナー、コピーライター、広告代理店、媒体社、広告配信会社、調査会社、制作会社、印刷会社、Web開発会社等々。多くのスペシャリストがマーケティングの仕事に関っているが、究極の共通目標はただ一つ。自らが担当する商品・サービスの市場シェアを上げ、売上を伸ばすことだ。
市場と向き合うことがマーケティング活動そのものであり、大きく三つに分類できる。
「市場の創造」「市場への参入」「市場内競争」
それぞれについて特徴を解説していこう。

 

市場の創造

新たな市場を創り出すことは、最もエキサイティングであり、かつ最も難易度が高い活動だ。
新市場が形成される過程では、既存の市場とは全く世界観が広がり、ムーブメントを湧き起こす。新市場を創り出したリーダー商品は、のちに参入する二番手三番手も巻きこみ、市場拡大を牽引する存在となる。
直近の分かりやすい例では、コカ・コーラが初めて酒類市場に投入した檸檬堂がこれに当たる。檸檬堂が発売されるまでは、缶チューハイという市場の中で、一つの種類としてレモン味があるに過ぎなかった。コカ・コーラは、最も売れているレモン味に着目し、そこにフォーカスしたのだ。そしてレモンチューハイという市場を創り出した。スーパーやコンビニの棚には、檸檬堂はじめ他社のレモンチューハイがずらりと並び、スペースの一定面積を占有していることが観察できる。
他にも、ロボット掃除機市場を創り出したルンバ、機械警備市場を創り出したセコムのホームセキュリティ、ハイボール市場のサントリー、吊り下げ虫除け市場のアース製薬、SUV市場のトヨタのハリアーなど、身近な商品で市場創造の例は様々ある。
市場創造は全社的な取り組みだ。緻密な製品開発、大胆なマーケティング活動、流通への幅広い営業戦略、全国規模のサプライチェーン、それらが一体となって整合性をとりながら前進していく。成功に導くために莫大な予算が投下される。ハイリスクハイリターンの取り組みだ。当然ながら、新たな市場形成に失敗し、消えていくブランドの方が圧倒的に多い。イノベーションには失敗はつきものという覚悟がいるのも、この市場創造の取り組みならではの特徴だ。

市場への参入

新たな市場が一旦形成され、拡大していく過程では、必ず二番手・三番手が参入する。理由は明快だ。新市場の成長に伴い、既存市場での売上が下がるからだ。消費者の財布の絶対額や企業の払える予算は決まっているから、新商品の購入額が増えれば、必然的に既存商品を買わなくなる。そのため同業他社は、こぞって新市場へ参入し、成長する市場の果実を少しでも奪取しようとするのだ。
新市場に追随参入する際は、市場を牽引するリーダー商品と比較して、いかに違いを見せるかが勝負となる。消費者にとって比較対象の商品として位置づけられるので、機能・価格・デザイン・売り方・伝え方など、様々なところで工夫を凝らす。差別化が重要なポイントだ。
新市場が急拡大する過程での新規参入の場合、じっくりと時間をかけた製品開発や戦略策定ができないことも特徴だ。スピードが大事になってくるので、上辺を取り繕うだけの参入になることが多々ある。本質を突き詰めないまま商品をリリースすると、消費者からの賛同を得られず、果実を得るどころか市場撤退になりかねないので要注意だ。二番手は二番手なりの、三番手は三番手なりのマーケティング戦略を立案し、確実に実行していくことが重要になってくる。

市場内競争

市場の成長が鈍化し、後発参入も含めてシェアの順位が定まってくると、既存市場の位置づけとなる。そこでは毎年のように、シェアの奪い合いが繰り広げられる。リーダー商品も二番手・三番手商品も、数ポイントだけでもシェアを上げるために工夫を凝らす。時間の経過とともに、既存顧客の離脱や休眠顧客が出てくるので、継続的な新規顧客の獲得と、離脱・休眠の防御策も重要だ。
新規顧客の獲得、休眠顧客の覚醒、既存顧客のRFM*スコアアップなど、様々なマーケティング施策を講じることが、市場内競争の特徴だ。
この段階では、事業は既に黒字化している。生み出す利益の大半は、市場創造に回されてしまうから、限られた予算の中で、シェアを上げ、利益率を高めることが求められる。最小限の費用で最大限の効果を得る。常に効率性が求められるのも、この市場内競争の特徴である。

以上、市場の捉え方を三つに分類して解説した。それぞれマーケティングの考え方と取り組み内容が、大きく違うことが分かる。通常のマーケティングの仕事で、圧倒的に多いのは三番目の市場内競争のケースであり、滅多にないのが一番目の市場創造のケースだ。
市場創造の仕事の機会に遭遇するようなことがあれば、大いに楽しみ、そしてダイナミックにチャレンジしていくことをお薦めする。

 

FIN. May 13th, 2022

 

 

*RFM: Recency(最新購買日), Frequency(購買頻度), Monetary(購買金額)の略。既存顧客のマーケティング分析を行うための指標