営業予算の攻防

毎年の恒例行事である営業予算を設定することは、組織の責任者にとってストレスの溜まる仕事だ。引き受けた予算の達成度が、自身と部下の社員達の評価と報酬に大きく影響するから、必死にならざるを得ない。
3月決算の企業では、早いところで8月頃、遅いところでも年末頃から、来年度予算のための攻防戦が始まる。
攻防の第一戦は、経営側を代表した企画部門と営業部門の責任者達だ。第二戦は、営業責任者と部長や課長たちとの攻防。さらに第三戦は、部課長とその部下の営業社員たちとの攻防に続く。
営業予算や営業目標の決め方は一様でない。経営幹部や管理職の胸先三寸次第であることも多い。
・トップダウンで有無を言わさず降りてくる予算
・根拠なく前年比何%という数値で降りてくる予算
・根回しや社内交渉力が物を言って決まる予算
・上のせいにして言い訳しながら部下を納得させる予算
会社の規模が大きくなればなるほど、よく見かける光景だ。
終身雇用と年功序列が保証されている時代は、納得しない予算を引き受けても、少しの間の我慢と言い聞かせてやっていけただろう。しかし今や、そんなやり方を続けていると、優秀な社員から順に辞めてしまう時代だ。
営業という職種柄、全てを合理的に決めることは難しいが、ある程度の合理性は必要だ。
営業予算の合理的な設定アプローチについて、以下三点を紹介しよう。

生産性で設定する

営業職種は、一定のレベルまで経験を積み重ねることによってスキルが上がる。スキルが上がれば行動の質が高まり、結果につながる量が増えてくる。つまり生産性が上がってくる。
生産性による予算の設定とは、営業のスキルレベルを踏まえた一人当たりの売上や粗利を決め、それを積み上げた形で営業予算を設定する手法だ。これによって、伸び盛りの若手から中堅社員までは、合理的に予算設定が可能となる。
気を付けるべき点は、経験豊富な年配社員の扱いだ。一定レベルの営業スキルまで到達したのちは、生産性を上げることが難しくなる。逆に、年齢を重ねるにつれ体力が落ち、生産性は下がってくることが多い。従って、今までとは違ったやり方や工夫を求めるか、もしくはポジションの変更を行う必要が出てくる。

市場から設定する

営業の主戦場には、常に市場がありシェア争いがある。営業は、その陣地獲得合戦と見なせる。市場の獲得シェアを第一目標として設定し、そこから営業予算をブレイクダウンする手法だ。これは4つのステップで進めていく。
1)   現状把握:市場と自社の状況を見える化
2)   将来予測:市場の伸び率を計算
3)   目標設定:市場におけるシェア目標を設定
4)   予算化:シェア目標達成のための予算をブレイクダウン
市場という上位概念から論理的に予算に展開する手法なので、納得感は得られやすい。個々の顧客の事情に捉われることなく、チーム一丸で達成に向けて行動を促す動機付けが可能となる。
気を付けるべきことは、市場は常に外部環境の影響を受けやすいため、当初の目標設定時とは状況が変わる可能性がある。従って、結果評価の際は、その変動要因も加味して行うことが大切だ。

次世代リーダー候補同士で設定する

予算設定の責任は、組織のリーダーにあるという概念を取り払い、その権限を移譲して次世代のリーダー候補たちに任せる方法である。
仕事が出来る中堅社員ほど、会社に対する問題意識が高く、不満を持っていることが多い。彼らに対し、予算に対する“やらされ感”を払拭し、自分事化させるのだ。複数の部署から一人ずつ選出し、相互の部署間調整、そして経営との合意も含め、一切任せることが重要だ。最終的に決まった予算は、リーダー候補たちが納得して設定した以上、責任感が全く違ってくる。
ここで気を付けるべきことは、ただ任せるのではなく、任せる側に説明責任が伴うことである。予算とは何か、何故これだけの予算が必要なのか、人件費の考え方や社内経費の構造、そして会計上の配賦ルール含め、次世代リーダーにきちんと説明して、理解させる必要がある。これは、リーダー育成プログラムの一環としても意味があることを念頭に置きたい。


以上、営業予算の合理的な設定方法について三点紹介した。
営業活動は、人間対人間の行為であるので、合理性だけで成立するものでない。それはもちろん承知の上で、単に数字を課すだけのルーチンの業務に、少しだけエッセンスを加えるだけでも、営業社員の意識と行動が変わってくるはずだ。

FIN.   May 20th, 2022