マーケターに求められる能力
ネットが台頭するようになり、企業では、自社の組織にマーケティング機能を置くことが、当たり前になった。ネット上に自社媒体(ホームページ)を配置し、顧客や消費者に、タイムリーに生きた情報を届けることができる。SNSを活用し、旬の自信作やアピールしたい製品を、文字と写真と動画で伝えられる。ファンやコミュニティを形成することができる。ネット上の様々な媒体の広告枠を直接購入して、自らがターゲットとした相手に、届けたいメッセージを伝えられる。今や、自らの創意工夫で、世の中にあるツールを駆使して情報発信できる環境が整っているのだ。
インターネットの無かった時代を振り返ってみよう。当時のマーケティングは、効率や効果という概念が希薄だった。広告媒体は希少価値であり、枠の値段が高価だったからだ。企業が広告媒体を活用したい場合は、独占販売権を握る広告代理店に頼るしかなく、それが出来るのは資金力のある大手企業に限られていた。資金力のない企業は、DMやチラシ、電話・訪問販売などの人海戦術的手段に頼らざるを得なかった。
当時は、マーケティングという言葉自体も今ほど使われておらず、組織の名称では、宣伝部とか販促部・調査部といった用語が使われていた。
現在では企業が、消費者と顧客に、自社の製品やサービスの情報を直接届けることが容易になっている。それを実現する機能こそが、マーケティングである。自社にマーケティング機能を置くということは、マーケティングに長けた人材、マーケターを配置することである。マーケターは、市場とのコミュニケーションを通じ、自社の製品やサービスの認知度を上げ、ブランド価値を高めことがミッションだ。
では、どんな能力がマーケッターに求められるのだろうか?
業種によって異なるマーケターの能力
マーケターの仕事は、企画の立案/コミュニケーション計画の策定/WebサイトやSNSの運用、そしてデジタル技術の見極めに至るまで、多岐に渡る。全ての業務を、自らの能力だけで完結することはできない。大事なところだけを内製化することで社内の知見として蓄積していき、実際に手を動かす専門的な作業は、外に上手く切り出すことが肝要だ。
企業がマーケターに求める能力は、その企業が目指そうとするマーケティングのレベルによって異なってくるが、販売形態と業種によって傾向が分類できる。
ここで紹介する上記の図は、記事「デジタルシフトへの潮流」で説明した業種の分け方と同じだ。上の位置にある業種ほど、デジタル化への対応度合が高いことを示している。この分類毎にマーケターに求められる能力を説明していこう。
マーケターに最も高いレベルを求める無店舗業種
ゲーム・ネット金融・ネット通販などリアル店舗を持たない企業は、ITそのものが事業基盤であり、かつマーケティング基盤である。マーケティング自体が、事業戦略に直結することになるので、マーケターには事業立案能力や実行能力が問われてくる。事業評価能力も求められるので、BS/PLの概念がわかっていることも必要だ。さらにデジタル技術に対する目利き能力も求められる。競争に勝ち続けるために、事業基盤において新しいデジタル技術の導入や更新が頻繁だからだ。
リアル店舗をもつメーカーでは、マス・店頭・デジタルの統合力が求められる
自動車や化粧品・アパレル・ラグジュアリーブランドなどリアルの店舗を持つメーカーは、統合力をマーケターに求める。デジタルで自社ブランドの世界観を演出し、実際の商品があるリアル店舗に誘導するというモデルだ。店舗や自社サイトに見込み客を誘導し、いかに購入につなげていくかが勝負だ。リピーターとしての購買率も高いため、CRMまでの一貫したシステムを活用した顧客とのコミュニケーション戦略を立案・実行できる能力も求められる。
卸売り主体のメーカーは、ブランド育成と斬新な広告作りが主流
食品・飲料・トイレタリーなど、単価の低い製品を扱う卸売り主体のメーカーは、ブランド育成とインパクトのある広告の演出が主体である。マス媒体とデジタル媒体を回遊する消費者に対し、広告による認知度を高め、購買につなげていく。従来からの4マス媒体主体のマーケティングに加えて、デジタルマーケティングを組み合わせる手法だ。最終目標となるのは、市場において自社製品のシェアを高めることである。マーケターには、市場を捉える力、そして市場シェアを高めるためのマーケティング戦略を立案できることが求められてくる。
流通・小売は、外部頼みから自社主体のマーケティングへの転換が課題
薄利多売のビジネスモデルが主流の流通・小売は、一部の企業を除き、ECサイト運営において未だ赤字が続く。販促手段では、旧来のチラシとDMからなかなか脱却できていない。デジタルマーケティングにも取り組んでいるが、試行錯誤が続いている企業がほとんどだ。
この業種での最大の悩みは人材不足である。販促やITは常に外部頼みの構図であり、やるべき事が十分に出来ていない。ある意味、今後のポテンシャルは十分にあるわけだ。自社主体のマーケティングに転換、つまりマーケターを自社に抱え、リテールマーケティングのノウハウと知見を蓄積していけば、効果も出てくるはずだ。
法人ビジネスや官公庁は、きめ細かい対応が鍵
デジタル化が最も遅れているのは、重電・機械・商社などの法人ビジネス系企業やインフラ系企業、そして官公庁である。コミュニケーションの主体はメールであり、外部への情報発信は自社Webサイトが中心だ。最近は、見込み客獲得のためのMA(マーケティングオートメーション)ツールと言われるシステムを導入しているところもあるが、十分に使いこなせている企業はごく僅かだ。
これらの業種の特徴は、社内でITやマーケティングに精通した人が少ないことにある。従って、マーケターは基本的な知識と経験があれば、社内で重宝される。また、根回しや予算取りなどのプロセスに手間と時間を要するのも、特徴の一つだ。痒い所に手が届くような、きめ細かいサポートが不可欠となってくる。
以上、マーケターに求められる能力は、業種毎で大きく違ってくる。
業種間で時間差はあれども、今後、コミュニケーションの主体がますますデジタルに移行していくことは間違いない。広告にかける予算も同様に、4マス媒体からインターネット媒体に年を追うごとに移行している。
デジタル化により、どの企業にとってもマーケティングが身近になった。今後さらに取り組む企業が増えていくことで、裾野が広がっていくに違いない。それに連動して、マーケターの価値は上がっていくと見ている。
FIN. August 27th, 2022