質問力を鍛える【2】

前稿(質問力を鍛える【1】)では、日本人が質問を苦手とする理由、そして何故質問することが大事なのか、ということについて言及した。
今回は、本題である質問力を鍛えるための視点と考え方を解説していこう。

(注:ここでいう質問は、家族内や友人同士で無意識になされている会話は対象としていない。ミーティング・ディスカッション・講演・セミナー・授業など公式の場でなされる質問を対象としている)

質問し慣れていない人が、いきなり高度な質問をすることは難しい。基本は、思考と経験とを重ねることだ。積み重ねによって、高度な質問もスムーズに出てくるようになっていく。
筆者は、質問のレベルを三段階に分けている。

レベルⅠ:正しく理解するために質問する

まずは、相手が話すことを、可能な限り理解しようとする姿勢が大切だ。相手から降り注がれてくる言葉の洪水に全神経を集中して、理解を試みてみよう。そうすると、必ず理解の曖昧な箇所が出てくる。
“私の理解は合っているのだろうか“
“わかった気になっているだけではないか”
そう感じる箇所を抜き出して、質問の形式にすればよい。
相手に質問する際には、正直に伝えることだ。
「ここの意味が理解できなかったので、もう一度教えてください」
「私はこう解釈したのですが、合っていますか?」
これらの質問は決して相手に対し失礼なわけではない。逆に、相手のほうが”私の説明が分かりにくかったのかもしれない“という気づきを与えるきっかけにつながる。

レベルⅡ:理解を深めるために質問する

限られた時間の中で話をする相手は、全ての事を説明できている訳ではない。当然いくつかの大事なことを抽出して、こちら側に伝えてくれている。
レベルⅡは、その話題について、より深く理解するための質問だ。これは、論理的な思考を通じて出てくる。論理思考には型があるのだが、いくつかを紹介しよう。

事象に対して背景を聞く
「その事件の背景には、どんなことがあったのですか?」

問題に対して原因を聞く
「そのトラブルの本当の原因は何なのでしょうか?」

手段に対して目的を聞く
「その施策は、何のためにやるのでしょうか?」

現在の事に対して過去を聞く
「今、上手くいっているとのことですが、過去はどうだったのか教えていただけますか」

意見・意思に対して理由を聞く
「貴方がそれをやりたい理由は何ですか?」
 
これらの問いかけは、往々にして、鋭い質問として相手の心に突き刺さる。問いかけ自体が、事の本質に近づいているからだ。本質を突いた質問がなされると、相手の反応は大きく二つに分かれてくる。
相手方が回答できるだけの十分な情報を持っている際は、喜んで教えてくれるはずだ。相手は、自身の話に興味をもってくれていることを実感できるからである。
相手方の返答が、しどろもどろの場合や、答えになっていない場合が、もう一つの反応だ。この時は、一旦引くことをお薦めする。突っ込みすぎると相手を傷つけてしまうからだ。
少し時間を置くと、そのうちに相手から答えが返ってくる。

レベルⅢ:理解を広げるために質問する

話題をきっかけにして、さらに話の内容を広げていくのがレベルⅢだ。これは少しだけ目線を高くし、視野を広げることによって質問が出てくる。目線の捉え方は二種類ある。

① 立場を変える
人が話す内容は大体、ある一つの立場に則って展開されている。反対側の立場にたったときにどうなのか、それを質問として表現するやり方だ。

提供者側と受け手側
「その商品を、消費者の皆さんはどう評価しているのでしょうか?」

賛成と反対
「その計画には反対する方もいたと思うのですが、反対の理由は何だったのでしょうか?」

日本の視点と海外の視点
「その地域で、我々日本人が気づかない、海外の人にとって価値あることは何でしょうか?」

男性目線と女性目線
「部長がおっしゃる人事の方針に、子育て世代の女性社員の意見は反映されてますか?」

② 切り口を変える
一つの話題に対して、切り口を変えることでも広がりは出てくる。一つの事柄や物に対して、見方を変えて質問するのである。以下に例を示していこう。

デザイン・機能・性能
「機能と性能はよく理解できましたが、デザインについてはどんな工夫をされたのでしょうか?」

組織・ルール・人
「新しいルールを全組織に適用して業績が上がったとのことですが、社員の皆さんの受け止め方はどうでしたか?」

ハード・ソフト・サービス
「アプリを開発する上で、動作するハードウェア環境と運用サービスの体制はどうなっていますか?」

計画・実行・検証
「いつも計画と実行まではしっかり出来ているようですが、結果の検証はどれくらいやれていますか?」

レベルⅢの質問は、かなり難易度が高いが、是非チャレンジすることをお薦めする。質問することで、相手にも思考を促し、気づきを与えることにつながるはずだ。

また難しい質問には、質問返しをすることも有効だ。
「何故、あなたはその質問をしたのでしょうか?」
「私が回答する前に、まずあなたに質問をしてもよろしいですか?」

自分の中の質問の引き出しを多く持てば持つほど、会話は広がり深まっていく。引き出しは経験で増えていく。旅の恥はかき捨てというが、臆せず、相手に敬意を払いながら、質問していこう。そうすることで、必ず力はついてくる。
コミュニケーション、対話こそが、人間関係を円滑にする最高の手段なのだから。

FIN.   October 8th, 2022