新卒3年3割退職の謎に迫る
大卒の新入社員のうち3割が、3年以内に辞める。これは此処25年間変わっていない数値だ。
この四半世紀、景気は低迷が続いているが、将来の可能性と体力の備わった学卒に対する採用ニーズは常に高い。どの企業も、雇用条件と労働環境を少しでも良くしていこうと努力を重ねているはずだ。それにも関わらず、何故この数値は変わらないのか。
筆者は、根本的な部分が変わっていないからだと見ている。その考察をしていこう。
変わらない要因①:新卒一括採用の功罪
学生の就職の仕組みは、大学3年の終わりに一斉に始まる。企業が門戸を一斉に開け、全国の大学生たちが、我こそはと人気企業から順番に殺到する。どの企業も、同じような採用のやり方で、同じような採用基準で学生たちをふるいにかける。
企業にとって、大変効率の良いやり方である。また、学生たちも一様に就職対策に集中できる。この双方にとっての効率の良さが、長年この仕組みを支えてきたわけで、支持もされてきた。
しかし良い面の裏側には、必ずマイナス面がある。
人には個人差があるので、一様というわけにはいかない。就職のために準備できている学生もいれば、準備ができていない学生もいる。既に社会性に長けている学生もいるが、そうでない学生たちの方が圧倒的に多い。そういう状況の中で、定められた一定期間の中、一斉に就職先を決めなければならない。これが日本の学生の宿命だ。流れに逆らって我が道を行くという学生も一部には存在するが、同調圧力の強い日本ではどうしても流されてしまうのが大勢だ。準備が出来ていないまま入社した者は、暫くしてから自分に合わないと気づくことになる。
変わらない要因②:旧態依然とした大学教育
大学の授業は、未だに一方通行の知識伝授が大半を占める。コロナ禍でのオンライン授業においては、それがさらに加速した。そのやり方は、知識習得する上では問題ないのだが、思考を巡らし自分なりの解を導くための学習には十分と言えない。社会に出ると、答えのない課題を解くことが常に求められるにも関わらず、相変わらず前もって準備された答えに導く授業しか行えていないのが現状である。
また、アルバイトやサークル活動に惚けて、学問に向き合っていない学生も一定数存在する。要領の良さだけで単位を取得する学生を、大量生産しているのが現状だ。
考える力が足りないまま、社会に放り出された学生たちは、当然のように悩み、路頭に迷ってしまうのである。
変わらない要因③:助言できない親世代
学生が就職するタイミングは、これまで手塩にかけて育てた子が親から巣立つ瞬間だ。社会で自立して生きていくための助言は、一番近くにいる親が行うのが望ましいわけだが、実際にそれが出来ているのは少数派である。その理由は以下の通りだ。
親世代の大半は、終身雇用を前提として一つの会社に身を捧げている世代である。自社のことやその業界には詳しいだろうが、それ以外の社会を知らない。拠り所とする価値観は、自分が所属する会社の常識をベースにしたものになってしまう。働き方という基本的な価値観でさえも、今や、30年前の常識と現在の常識とはかけ離れてしまっているのだ。
多様な選択肢がある就職活動に対し、狭い視野からのアドバイスは、子供たちの心に響かない。現代の親世代には、価値観の多様性に対する理解と、変化に対する受容性の高さが求められている。
以上三点が、新卒の学生たちが3年以内に3割辞めてしまう根本的な要因であると考えている。どの要因も、社会的な課題として認識されているため、少しずつは改善されていくであろう。しかし一気に良くなることはない。
採用する側の企業は、一定の割合で新卒社員たちが辞めていくことを常に念頭に置いておきながら、雇用条件と労働環境の改善に取り組んでいく必要がある。
FIN. December 4th, 2022