日銀 低金利政策の罪と罰【1】

日銀は、日本経済に対し、30年間劇薬を打ち続けた。その劇薬のお陰で、日本経済を死に至らしめるような事態を避けることができ、景気を下支えすることに繋がった。
しかし、効き目のある薬であればあるほど、その副作用は大きい。我々は、劇薬に慣れっこになってしまい、その中毒患者となっている状態だ。この状態から脱し正常化していくためには、長く困難な道のりが待っている。

日本が破綻危機に陥らない理由

日本政府が発行している国債は、2022年1000兆円を超える見込みである。
過去の歴代内閣は国債を増刷し続けてきた。岸田内閣になり、さらに拍車がかかった。莫大な借金を抱えている日本政府は、何故破綻しないのか・・?
まずは、その謎を説明しよう。


Figure1は、左に国債残高の推移と、右に家計及び企業の保有資産残高の推移を示している。両者のグラフを比較できるように、縦軸の金額スケールは同じにしてある。
国の借金である国債は、毎年増加の一途を辿り、その残高は、2022年に1000兆円を超えたことが分かる。それに呼応するかのように、家計の資産も企業の資産も増加していることが見て取れる。家計資産は2000兆円を超え、企業資産は1200兆円を超えた。つまり、政府の借金1000兆円を大幅に上回る3200兆円という資産が、一般家庭と企業に蓄積されているということだ(*1)
これは、日本国全体のバランスシートにおいて、債務超過に陥ることなく、資産超過の状態を維持できているということを意味する。世界の金融市場において日本の信用が維持され続けている理由は此処にある。

家計金融資産が膨れ上がった背景

次に、家計の金融資産がここまで膨れ上がった背景を考えてみよう。


家計は、潤沢な資金を銀行に預ける。銀行は、そのお金を使って国債を購入する。政府は、国債を社会保障費に充て、家計に還元しているという構図だ。本来であれば、社会保障費が消費に転換されれば問題ない。しかし現実の家計では、消費ではなく蓄財に回っている。この結果、家計の資産は増え続け、国の借金も同様に増え続けている。
2013年からは、日銀の異次元緩和策により、民間銀行だけではなく、日銀自体も積極的に国債を購入する政策に転換した。政府は財政規律よりも、選挙のためにバラマキ政策を優先した。これによってさらに輪をかけて、家計の金融資産は膨らみ、国の借金も膨れ上がる結果となっているわけである。

個人資産の膨張による格差の拡大

家計の資産が増えたといっても、国民全員が裕福になっているわけではない。持つ者はさらにますます富み、持たない者は変わっていないのが現状である。
それを示す顕著な例を見てみよう。Figure3は、首都圏(一都三県)のマンション一戸の平均価格の推移である。


首都圏の新築マンション販売価格は、2008年のリーマンショック前までは、4000万円程度であった。ところが、リーマンショックを機に4000万円後半に跳ね上がった。さらに2013年以降は急上昇を重ね、コロナ禍の2020年には6000万円を超えた。6000万円という価格は、1980年代のバブル期の価格を上回る金額である。また、新築マンションに限らず、中古マンションも値上がりを続けている。
不動産価格は、景気やGDPの動きとは全く相関性のない値動きになっているということがよく分かる。相関性があるのは、日銀の政策である。最初に価格が跳ね上がった2007年から2012年は、量的金融緩和政策と言われる超低金利政策を行っている。さらに2013年以降は、アベノミクスの一環であるマイナス金利も付けた量的・質的緩和政策を取り続けている。市場に大量に放出された豊富な資金と、借りやすい低金利という条件により、投資家たちの関心事が不動産に向かっていったことが見えてくる。
億ションと言われる一億円以上のマンションは、富裕層と言われる金と暇のある人たち、及び海外投資家が、節税と資金運営のために購入している。 一億円以下の物件は、パワーカップルと言われる、世帯収入一千万円以上の夫婦共稼ぎの層が主な購入者だ。いずれにしても、都市部において住居を購入できる層は、そう多くはいない。
価格上昇に伴う住居費の増大は、当然ながら子育て世代の家計に直接影響する。子育て世代は、目下の住宅ローンと、将来の養育費・教育費の負担のバランスをどうしても考えてしまう。結果、少子化という社会課題に対し、さらに拍車をかける要因になっていると考えられる。

***次回へ続く****
日銀 低金利政策の罪と罰【2】

FIN.   December 25th, 2022

*1: 厳密に言うと、家計と企業は、手元資金だけで資産の全てを賄っているわけではなく、借入金もある。同時期の家計と企業の借入金の合計値は約840兆円。その金額を加味しても、日本全体のバランスシートは、潤沢な資産超過であると判断できる。