意識が変わる 行動が変わる

社員の意識と行動を変えたい。やる気をもって取り組んでもらいたい。モチベーションを高めたい。積極的にチャレンジしてほしい。
これらの想いは、組織の上に立つ中間管理職、役員、そして経営者が常日頃から考え、そして悩み続けていることだ。数人レベルの小さな組織であれば、個別対話によって、部下の社員たちの意識と行動を変えていけるかもしれない。しかし数十人、数百人、数千人規模の組織となると、対話だけでは不可能だ。社員一人一人、多種多様な価値観を持っているのだから。
自社のビジネスが成熟期を迎えると、確立された事業モデルに胡坐をかいて、慢心しがちになる。危機感が薄れ、昨日と同じことを繰り返すことで仕事をした気になってしまう。そのうち、事業成長の停滞と同期するかのように、少しずつ社員のモチベーションは下がっていく。
数十人・数百人・数千人規模の社員の意識と行動を変えていくには、何かしらの仕掛けが必要だ。今回はその仕掛けについて解説していこう。

構造を変える

企業体は複数の要素で構成されており、その要素が組み合わさることにより構造が出来ている。企業体の構造は、大きく三種類だ。ビジネスの構造・組織の構造・予算の構造である。これらの構造を変えると、社員の意識も行動も大きく変わってくる。

1.       ビジネスの構造を変える

例えば、これまで外注していた機能を自社に取り込み、内製化していくことは、構造改革の一つだ。外部にあるノウハウや技術を取り込み、自力で価値を提供することは、そう簡単ではない。一定の品質を確保し、かつ市場競争力を保つ必要がある。技術・人材・業務プロセス・マネジメント、これらの要素全てを視野に入れ、新たな仕組みを構築していかなければならない。
また、ハード主体のビジネスから、ソフト、サービスビジネスへ事業展開する場合も、構造を変えていくことになる。単品の販売と、人工(にんく)をベースとしたソフト・サービスの販売とでは、売り方が全く違う。コストのかけ方、値段のつけ方、販売チャネルのあり方、業務のプロセス、会計処理、これら全ての構造が変わってくる。
ビジネスの構造が変われば、今までの仕事のやり方は通用しなくなる。必然的に社員の意識も行動も変わることが求められてくる。

2.       組織の構造を変える

組織を変えることは、経営者の専売特許だ。組織の統合、組織の分割、組織の新設。これらは人事異動の時期に、頻繁に行われていることである。その対象となる社員は、当然意識と行動を変えていくことが求められる。
加えて、全社的に組織の構造を変えることで、社員の意識を変えようとする例を紹介しよう。
会社を分割して、ホールディング会社を設立、その配下に複数の事業会社を置くケースはその一つだ。この背景には、それぞれの事業会社に対し、コストに対する意識と経営者としての意識を高めたいという大きな狙いがある。
また、同業の会社を買収し、事業規模が大きくするケースも、意識と行動を変えるきっかけとなる。これまでの過剰に膨らんだ無駄を排除し、新しい価値観を醸成し、仕事のやり方を再設計する機会となりうる。

3.       予算の構造を変える

組織の構造を変えることとセットにして、予算の構造を変えることで、変革に対する意思を示すことができる。
例えば、成長産業に対し、大幅に資金投下しようとする際には、予算構造の見直しが必須だ。大きな投資は当然リスクを伴うが、他社に先駆けて事業化の果実を得るために必要となる戦略だ。その際は、資金だけではなく、人というリソース配分の見直しも併せて行う。既存事業はより利益を出すために、人員を絞り込む。既存事業の利益を原資にして、将来可能性のある社員たちを新規投資する部門に配置するのだ。

仕組みを変える

仕組みを変えるとは、社内の制度・ルール・プロセスを変えることである。要は、社内の法律と仕事のやり方を再定義することだ。社員の意識と行動を変えるための具体的な仕組みとしては、「管理会計」「人事制度」「IT化」の三つがある。

4.       管理会計の仕組みを変える

管理会計とは、組織を評価する仕組みであり、かつその結果に基づき経営判断をするための仕組みである。組織の活動を可視化し、重要な指標を数値化して、トラッキングしていく。社員にとっては、会社が組織に対し何を重要視しているのか、どの目標を達成すれば評価されるのかということが、明確になる。故稲森氏が提唱していたアメーバ経営の手法は、この管理会計の仕組みそのものである。

5.       人事制度の仕組みを変える

管理会計は組織の評価指標であるのに対し、人事制度は個々の社員の評価指標を定義したものである。
未だに、年功序列的で曖昧な人事制度を適用し続けている会社は数多くある。やっている仕事に対して給与が見合わない。正当に評価されない。この先のキャリアのビジョンが描けない。このような社員たちの不平不満が積みあがっていく根本の原因は、人事制度にある。
人事制度の仕組みを変える際には、評価・報酬・処遇・キャリアモデル、これらを合わせて再設計することになる。何をやれば会社から評価されるのか、この会社でどんなキャリアを積むことができるか、それらを示すことで社員の意識と行動は大きく変わってくる。

6.IT化により業務の仕組みを変える

人がいない、足りないと現場からいつも声が上がっている。長年に渡り同じ業務のやり方を続けている。その人がいないと成り立たない仕事がある。いつの間にか利益に貢献しない業務が肥大化している。このような現象は、企業の中で至る所に転がっている。
IT化は、社員の意識と行動を変えるツールだ。無駄な業務を削ぎ落し、ITに任せられる業務は全て任せる。それによって、本来人間が行うべき知的生産活動に集中できるように仕組みを変えていくことが可能だ。

意識が変わり、行動が変わり、結果が変わる

上記で述べたように、「構造を変える」「仕組みを変える」ことにより、社員の意識を変え、行動を変えることが可能だ。社員の意思と行動が変われば、必ず結果も変わってくる。つまり最初から、意識と行動を変えることを主眼に置く必要はない。変えていく順番は、構造または仕組み、そこから始めることだ。それらが狙い通りに変われば、意識も行動も結果も付いてくるということになる。


組織の規模が大きくなればなるほど、構造と仕組みを変えることの難易度は高まるが、成功した暁には大きな成果がもたらされる。
事業の停滞感、先行きの不透明感が出てくる前に、勇気をもって、構造と仕組みの改革に着手することをお薦めする。

FIN.    January 22nd, 2023